カウンセリングが必要な人とは?

 

第1回目のブログで私は下記のように述べました。


“カウンセリングや心理療法が必要な人と、そうでない人がいると思うのです。この違いは決して、病気/健康の違いでも、異常/正常の違いでもありません。”(「カウンセリングオフィス開業にあたって(前編:説明責任・アカウンタビリティーについて)」より)

カウンセリングや心理療法が必要な人とはどのような人でしょうか。今回はそのことについて説明したいと思います。

前提条件:本人が苦しんでいること

まず、カウンセリングや心理療法の一番重要な前提条件として「本人が苦しんでいる」ことが挙げられます。どんなに病理が重くても、どんなに周囲が困っていても、本人が苦しんでいなければ効果はほとんど得られないだろうと思われます。苦しんでいないということは本人にとっては現状を変える必要がないのですから、効果を得る必要もないのです。配偶者などの身の回りの人にカウンセリングを受けてほしいといった申し込みが時折あります。また、カウンセリングを懲罰的なものとして捉え、加害者に対して「カウンセリングを受けさせるべきだ」といった言説もよく聞かれます。しかし、当の本人に苦しみや困り感がなければ効果がないばかりか、害にしかならないでしょう。カウンセリングや心理療法は必要のない人にとっては侵襲以外の何物でもありません。

精神分析の分野では、来談される方のことを「患者:Patient」と呼ぶことがあります。Patient の語源はラテン語「Patior」、つまり「苦しみに耐える」ということを意味します。来談される方に対して、これまで苦しみを耐えてきたこと、その苦しみに向き合おうとされていることへのリスペクトを込めて「患者:Patient」と呼ぶのだと思います。

「こんな些細なことで相談してもいいのでしょうか?」
「普通に生活を送れているし、大きな問題はないんですけど・・・」

申し込みの際に遠慮がちにこのようなことをおっしゃる方がいます。どんなに些細なことであっても、生活上、大きな支障が出ていなくても、ご本人が苦しい、つらい、困っているなどのひっかかりを感じていたら、カウンセリングや心理療法が役に立つ可能性があります。


精神疾患を持つ方の場合

精神疾患を持つ方の場合、薬物療法や休養で改善しない時にカウンセリングや心理療法が役に立つことがあります。うつ病などの精神疾患にかかって精神科や心療内科を受診すると、通常は薬物療法や休職などの休養が指示されます。数ヶ月ほど時間はかかりますが、このような対処によって症状が改善するのであれば、カウンセリングや心理療法の出る幕はありません。

しかし、原因が環境(職場のパワハラ、DVなど)や、性格や考え方のクセ、過去のこころの傷つきにある場合は、薬物療法や休養のみで改善しないことが多いです。そのような時には、環境の問題を整理して現実的な対処を考えるカウンセリング、自分の性格や考え方のクセに向き合う心理療法、こころの傷にアプローチする心理療法などが役に立つかもしれません。

ただし、薬物療法を打ち切ってカウンセリングや心理療法に切り替えるという方法は慎重に考えるべきでしょう。多くの研究結果から、精神疾患を持つ人の場合、カウンセリングや心理療法単独よりも薬物療法+カウンセリングや心理療法のほうが効果が得られることが示唆されています。カウンセリングや心理療法を始めるからといって必要な薬物療法を打ち切ってしまったら、せっかくカウンセリングや心理療法を行っても十分な効果が得られない可能性があるのです。

まとめ

端的に言えばカウンセリングや心理療法が必要な人とは、本人自身がなんらかの苦しみを抱えていて、その苦しみは薬物療法や休養では緩和できない人と言えます。逆に言えば、カウンセリングや心理療法が必要ではない人とは、本人自身が苦しんでいない人、他の方法で緩和が可能な人ということです。

そう考えると、病気の人であっても休養や薬物療法で緩和できるならカウンセリングは必要ありませんし、精神的に正常な人であっても重大なトラウマを受けて他の方法で苦しみが緩和できなければカウンセリングが役に立つと言えます。一般的に、カウンセリングを受けるのは病気の人だ、精神に異常を抱えている人だという見方をされることが多いですが、まったくの偏見だと私は思うのです。

※子どものカウンセリングの場合は、本人はつらさを自覚していなくても、親御さんが必要性を感じて来談されることがあります。しかし南町田カウンセリングオフィスは大人の方を対象としているため、ここでは子どものカウンセリングについては取りあげていません。



2021年02月08日