精神分析におけるセックスとジェンダーを学ぶ会2023年第1回

2023年4月15日に「精神分析におけるセックスとジェンダーを学ぶ会2023」第1回を行いました。今回はミッチェルの『精神分析と女性の解放』を扱いました。Mitchell,J. 1974 Psychoanalysis and Feminism. Allen Lane, London. 上田昊訳(1977)『精神分析と女性の解放』合同出版

本書は精神分析的フェミニズムと言われる分野の代表的な著作です。精神分析的フェミニズムとは何でしょうか。当時、精神分析は精神医学界で隆盛を極めており、その影響力は一般の人々の考えにも浸透していました。一方、その頃、社会的には第二次フェミニズムの流れもありました。

精神分析理論は当時のフェミニストたちの攻撃の的となりました。なぜなら、フロイトの女性論は、女性を男性よりも劣ったものとする理論と読み取れるからです。ミッチェルが行った仕事は、これらの言説に対する精神分析家としての応答でした。すなわち、フロイトの理論は女性のあるべき姿を描いたのではなく、家父長制の社会における女性の心理をあぶりだしたものとして読み取るべきであるというものです。

というのが解説書に書かれる一般的な紹介ですが、今回、元文献にあたったことで、さらにその思想の深層に迫ることができました。ミッチェルが繰り返し述べていたことは「個体発生は形態発生を繰り返す」といった内容です。

古代、女性は交換物の対象でした。近親相姦を避けながら子孫を残す仕組みとして、民族間で女性が交換されていたのです。なぜか女が男を交換することはありません。ほとんどいつも男が女を交換してきました。このあたりは社会人類学者であるレヴィ=ストロースを参照しているようです。

その風習がなくなり何千年、何百年たっても、男性が女性を所有する文化は残り続けました。心理学的に言えば、人々のこころに内在化されたため・世代間連鎖が起こっていたためだと言えるでしょう。

例として、虐待の世代間連鎖について考えてみましょう。連鎖を断ち切るにはどうしたらいいのでしょうか。それは現世代がまず、何が起こっているのかを意識化することです。そうすることで、現世代に起こっている悲惨な出来事が、小さな家族の中で起こっていることではなく、長い歴史の中で父母、祖父母、曾祖父母…もしかしたらもっと前から築き上げられてきたものだと気づくことができます。それに気づくことができれば、過剰に自分を責めることも、過剰に家族を責めることもなくなるでしょう。そして、この連鎖を自分が変えうる、自分は親のように子どもを虐待しないでいられるという勇気を抱くこともできるかもしれません(そこに至るまでには、専門的サポートが必要になることが多いです)。

当時の家父長制において、フロイトが女性を男性よりも劣ったものとして描いたことは、長い歴史の中で築き上げられた貶められた女性像を描き出したという点で意義深いと言えます。まずは現状を知らなければ、何も変えることはできないのですから。

と、ここまで書いて、私は重大な間違いに気がついてしまいました。ジュリエット・ミッチェルはイギリスの精神分析家なのですね。今年度はアメリカの文献に焦点を当てるという企画だったのに、勘違いしておりました。私の無知ゆえに誤解をまねく発信をしてしまいました。申し訳ございませんでした。

でも、その後のアメリカの分析家、ナンシー・チョドロウの精神分析とフェミニズムの融合という仕事に結びついたことを踏まえると、まったく関係ないわけではないのですが…。