精神分析におけるセックスとジェンダーを学ぶ会2022年第6回

2022年10月15日に「精神分析におけるセックスとジェンダーを学ぶ会2022」第6回を行いました。今回はオグデンの「移行的エディプス関係」を取り上げました。Ogden,T.H. (1987) The Transitional Oedipal Relationship in Female Development. International Journal of Psycho-Analysis. 68:485-498

「移行的エディプス関係」という用語は聞き慣れないかもしれませんが、女の子の精神性的発達を促す対象関係のひとつと言えるものです。幼稚園生くらいの女の子は、父親的存在とのロマンティックな関係を空想すると言われますが、その前段階として、母親的存在の無意識の中の父親的存在とロマンスのリハーサルをするのだと、オグデンは述べています。

例えば、こういうことではないでしょうか。3歳くらいの女の子が母親とごっこ遊びをしています。遊びの中で女の子はお姫様になり、母親に王子様役を演じるよう求めます。母親は快く応じ、このような台詞で心から語りかけます。「なんと美しい姫でしょう。どうか私と結婚してください。」

(このエピソードは論文にはありません。“ If I were a man, I would be in love with you, find you beautiful, and would very much want to marry you.”という記述から、児島が読み取ったものであります。)

この時、母親は母親であり、父親でもあります。このパラドックスこそが、女の子が非外傷的に男性に出会う橋渡しとなります。

ここで女の子が恋しているのは母親そのものではありません。母親がかつて、母親の父親に無意識に同一化した内的部分です。女の子は、母親的存在の内的父親と恋をしているのです。そして母親的存在に内的父親が形成されるには、かつて母親的存在のさらに母親的存在が父親的存在とのロマンスを経験したのでしょうし、その橋渡しとして、母親的存在のさらに母親的存在に内的父親が存在していたからだと言えます。…なんだかこんがらがってしまいますが、そこには母親的存在を介して連綿と良いものを渡し続けていく、世代継承があるということです。

論文では”mother”と書かれていますが、おそらく「母親」ではなく「母親的存在」であることが重要なのでしょう。実際の母親でなくても、女の子にとって同じ性的身体を持つ親的存在との関係性において、移行的エディプス関係というものが展開することが大事なのだろうと思われます。論文ではLという女性患者が女性治療者と、精神分析的心理療法の中で移行的エディプス関係を経験するさまが描かれています。