精神分析におけるセックスとジェンダーを学ぶ会2022年第5回

2022年9月17日に「精神分析におけるセックスとジェンダーを学ぶ会2022」第5回を行いました。今回はE.H.エリクソンの『幼児期と社会Ⅰ』を取り上げました。Erikson, E.H. (1950) Childhood and Society. W.W. Norton & Company. 仁科弥生(1977) 『幼児と社会Ⅰ』みすず書房

「心理社会的発達理論」「アイデンティティ」「モラトリアム」などの概念は、専門家でなくても聞いたことがある人は多いでしょう。エリクソンはこれらの有名な概念を創りだした精神分析家です。

今回は「心理社会的発達理論」についての文献を読みました。人が生まれてから死ぬまでの成長について、発達段階に即した身体的快原理と文化社会の相互作用を踏まえた理論構築が特徴です。

ディスカッションでは男児と女児が発達の過程で自らの身体をどのようにパーソナライズするのか、そこにはどのような違いがあるのか、ということが話し合われました。遊びの中で男の子は上昇―下降を意味する動的なものを表現することが多く、女の子は空間を意味する静的なものを表現することが多かったそうです。エリクソンはここから、ペニス、子宮といった性器様式を見出し、子どもが性器的身体を認識しているさまを描き出しました。

別の文献(中島由恵訳『アイデンティティ』新曜社)で、エリクソンは女の子が内部空間の能力を発揮して「女の仕事」をすることが女性性であるとすると述べていました。「女の仕事」とは子どもを産むこと、子育ての初期に主たる養育者となり、共感性を発揮することを意味しているようです。その論には、子宮への過大な憧れと理想化が感じられました。この文献はエリクソンの晩年に著されたもので、後期になると文化社会の影響よりも性器様式の影響を強調していることが見て取れます。

実際のところ、男性らしさや女性らしさに与える影響について、性的器官から生まれる無意識的空想と、文化社会、どちらが優勢なのか、厳密に調べる研究は不可能かもしれません。ただし、臨床的には当人の語りを注意深く聴くことで、ある程度の見立てはできそうです。セクシャリティについての語りを聴く際には、どちらかに偏ることなく、両方の影響を見定めていく必要があるのでしょう。

エリクソンの発達理論は、西洋文化(と部分的には白人異性愛男性)をモデルにしており、それ以外を逸脱と捉えるところが、現代的にはアレンジが必要な部分と思われます。異性と親密になり、生産性や生殖性を発揮することをゴールと捉える考え方はずいぶんステレオタイプに感じられます。それ以外の発達のあり方はないのでしょうか。その文化社会の中で良いとされているあり方、その人の個人的体験やトラウマの程度によってゴールの形が変わってくるということ。そのような視点も必要だろうと思われました。